山口教授へのインタビュー&研究室見学の様子

1.はじめに
実際に行ったインタビューの様子を文章や写真といった形式で紹介していきたいと思います。

山口先生による研究紹介動画はこちら

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こちらも併せて最後までお付き合いいただけるとありがたいです。

2.山口先生へのインタビュー

学生:山口先生が化学の道を志されたきっかけを教えてください。

先生:僕は兵庫県高砂市出身なんですけど、そこは海浜の土地で神戸製鋼キッコーマン、カネカなどの工場が多くあって、近くの加古川市まで行くと製鉄所がたくさんあったりする土地だったので、小学生くらいの頃に地域の子供会のイベントでよく工場見学に行っていたんですよ。僕の家の前にも工場が建っていて、小さい頃から工場を見る機会がよくありました。それで工場で働きたいなと思っていて、そこで化学に興味を持ちましたね。なのでその頃は化学というより今でいうところの化学工学に興味があって、工場のパイプの中でどのようなことが起こってるのかにすごく興味がありました。それで化学系の学部に進学していつのまにか職業になっているといった経緯ですかね。

学生:小学生の頃から化学に興味を持たれていたとすると、やはり中学高校では化学が得意科目だったりしたのでしょうか?

先生:正直あんまり好きではなかったです。中学校高校の化学ってあまり面白くなかったんですよ。理由としては覚えるだけってのが多いでしょ。例えば、塩化銅の水溶液は青色だとか、分析の問題とかであれこれ混ぜて沈殿ができました、色が変わりました、とかね。覚えるだけで面白くなかったんですよ。でも大学の勉強で量子化学を勉強すると、なんで色が青色に見えるとか理屈がわかってくるじゃないですか。

学生:たしかにそうですよね。

先生:それに有機化学でもメタンって正四面体の形をしているって習うんですけど、高校の内容だけだとなぜこのような形をしているのかって分からなかったわけなんですよね。ただ覚えるだけで。それが、理屈が分かるようになってくるとこういうことをすれば新しい分子が作ることができるってことが分かるようになって、少しずつ楽しくなってきた感じですね。むしろ大学入って、大学院生になって、こういう職業をしていて、どんどん面白くなる感じなのかもしれないです。

学生:山口先生といえば金属を使った触媒の研究ってイメージなんですけど、金属とかって昔から好きだったりしたんですか?好きな金属ってあるんでしょうか?

先生:金属好きですねぇ。金(きん)とか好きですよ。金の延べ棒みたいなのも大好きですねぇ。でも結構面白くって。逆に質問ですけど、なぜ金って貨幣価値が高いと思いますか?

学生:絶対に錆びないから…ですかね…(?)

先生:そうですよね。錆びない、つまり酸素と反応しないからですよね。だから金って貨幣価値があって資産になるわけですね。でも、だんだんだんだん小さくしてナノ粒子にします。するとめちゃくちゃ酸素と反応するようになるんです。酸素とくっついたら酸素を活性化して金の表面に酸素がくっついて活性な酸素ができるんです。それを使うといろんな有機物を酸化出来たりするんです。そういうふうに同じものでもサイズ変えるとか形変えるとかで特性がまったく変わるとか本当に面白いと思います。

学生:化学を好きになったきっかけって大学で深入りした勉強をして理屈が見えてきたということをおっしゃっていたと思うんですけど、物理とか数学でも深入りしていくという点では学問としては同じだと思うんですけど、そことの違いは化学においてありましたか?

先生:一番の違いは物を作れるのは基本的に化学だけなんですよね。結合を組み替えたりして新しい物質を作りますよね。それができるのって化学だけなんですね。今は物理も化学も研究領域がぐちゃぐちゃになっているので物理の人もモノを作るわけなんですよ、でも材料を作る学問って化学だけなんですよね。だから好きなのかもしれないですね。医薬でも生物でも今は分子のレベルで考えるじゃないですか。お薬とかも分子じゃないですか。こういう抗体にくっつく分子をどう作るかっていうところってほんとに化学じゃないですか。だからそれで面白くて一番好きなんじゃないかなって思いますね。

学生:化学が一番現実に近い学問ってことですね。

先生:そうそう。化学がないと皆さんこんな豊かな暮らしできてないですよね。今地球の人口も70億人くらいいますよね。ハーバー・ボッシュ法で窒素と水素からアンモニアを作ってそれから肥料を作ることができるようになってから人口が三倍以上になってますよね。それも化学のおかげだし、でもそういうのができることで逆に環境を汚すようになっているわけですが、それを解決できるのも化学だけなんですよね。

学生:先生の趣味や日常生活で心掛けていることといったものはありますか?

先生:日課というと、最近は朝起きるのがだいぶ早くなってきたので朝一時間から一時間半くらいお散歩してから大学に来ることですかね。
趣味は野球を見るのが趣味なんですけど今年は…。僕兵庫県出身なんで…。「今年は…」って言ってる意味分かりますよね…。今年はねぇ…すごいですよねぇ。何連敗でしたっけ…?去年は楽しかったのですが…。(*このインタビューは四月中旬に行われたものです)

学生たち:笑笑笑

 

学生:ほかに日々心掛けていることとかありますか?

先生:「日々楽しく生きること」ですかね。楽しんだほうがいいかなと思って。自身はもう実験をする機会はほとんどなくなりましたけれども、研究をやりだすとほとんどがうまくいかない結果しか出てこない毎日を送ることになるんです。学生実験だともう結果が分かっていることをやることで実験のやり方を今学んでいるところなんですけど、四年生、大学院生になって研究をやるようになると、世界中でまだ誰もやったことのないようなことを初めて挑戦することになるわけですよね。試行錯誤してやっていくわけです。反応を起こそうとしてみてもまったく進まないということが結構出てきます。そこでへこまずに、次こういう方向性を試してみましょう、そうしたら少し進んだ、じゃあこの方向性を試して…というふうに繰り返して研究を進めていくんです。

だから、はじめてやると自分がまったくうまくいってないような錯覚に陥ってメンタルがやられてしまうこともあるかもしれないけれども、そこを敢えて楽しむようにするのがいいのかなと思います。だって全く反応が進行しないというのもある意味立派な結果でこのアプローチではダメというのをちゃんと示す実験結果で、考えの方向性を修正してくれる実験データなので、それを「楽しむ」のがいいと思います。こぼして失敗したらへこめばいいんですけど(笑)。

学生たち:(大きくうなずく)

学生:先生が研究をしてきた中で一番印象に残っていることはなんでしょうか?

先生:印象に残っていることはいっぱいありますね…。自分がこうだろうと思って混ぜるわけですよ。でも混ぜて取り出して分析してみるとなんじゃこりゃ?てのが一番楽しくて印象に残っていることですかね。

とくに印象に残っているところだと…


先生:このニコチンアミドという化合物は栄養ドリンクとかにも含まれているよく人工的に作られている化合物なんですけど、カルボン酸から作りだすことになるんですけど直接反応が進行しないので塩素と反応させて段階的に反応を起こすんですけどここで必要な試薬SOCl₂、これ見るからにやばそうじゃないですか。さらに途中でSO₂やHClが発生してしまう。これもう環境的に駄目ですよね。

先生:そこでだいぶ前からこういう反応ができれば環境にも優しいし無駄も少ない理想的な反応だなと思っていたわけです。これを一気に全部進めてくれる触媒があったらいいなと5年くらいずっと探していて、あるとき別の用途に使っていた金を乗せた酸化マンガンを使ってみたらなんとこの反応が進んだんですね。金ってすごいなぁと思ったわけです。でも色々実験を重ねた結果、実はこれって金がまったくいらずにマンガンだけでこの反応が起こせたんですね。

先生:これがまさにこの触媒で、小さい酸化マンガンを使ったら酸化からアンモニア付加から脱水から酸化、最後に水を入れるところまでやってくれるという一石何鳥もの反応をやってくれる触媒を発見したのが一番印象深いかもしれないですね。もともとこうつもりじゃなかったんだけどなぜかうまくいったんですよ。これもこのへんてこりんな構造をしているのだけがよくってほかのタイプの酸化マンガンを使うとなぜかうまくいかないんですよ。予期もしなかったところで紙に書いた理想の反応がうまくいったときが面白いなぁと思いますね。

学生:最後に、先生の思う化学の魅力について教えてください。

先生:さっきのと重複になってしまう部分もあるのですが、化学ってサイエンスの中心に位置する学問で、物質を作るとか物質の形を変えることができるのが化学なんですよね。だから、化学はモノを作りたい、物質に興味がある人にはぜひ目指してもらいたい学問です。

先生:あと、ちょっといやらしい話になるのですが…今工業分野においてどの業種が一番平均年収が高いと思います?

学生: えっっと…なんとなくですけど情報系が高そうな気がしてます。

先生:このHPを見てください。

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan1997/menu/05.htmより

先生:国税庁のHPから取ってきたものなので信用に足るデータでしょう。これによると、「平均給与を業種別にみると、最も高いのは化学工業の~」とありますね。平均給与ですからね。たくさんもらってる人からあまりもらっていない人も合わせての平均なんですよ。これが意味していることはまぁまぁ貰える訳ですよ。情報系とかたくさん貰ってるイメージじゃないですか。でもそれってごく一部の一握りの人だけが貰うわけであって平均すると決して高いとは言えないんですよね。貰える給料の期待値がすごく高いのが化学の良さのひとつでもありますね。嫌らしい話になっちゃうけど(笑)。それに化学って需要が絶対なくならない分野ですよね。生活に密接しているので。化学って重宝されるので就職も幅が広く、例えば自動車会社も触媒や電池を扱うのでそちらに就職する人も多いです。材料が関係するところには必ず化学が関わってくるので、さまざまな企業で幅を利かせることができます。いわゆる石油化学工業というだけではぜんぜんないんですよね。化学の関わる工業って。こういうことも化学を目指そうとしている人には知っておいて貰いたいですね。しっかり学べば将来安泰ですよ。さらにこの応用化学科は博士の方が就職はとても楽で就職後も将来役職につけるチャンスが広がります。さらに在学中のサポートも手厚いのでとてもおすすめしたいです。

まとめると、化学は夢のある面白い分野だよってこと、これからも絶対なくならないので世の中の役に絶対立てるということ、プラスお金もしっかり貰える安心できる分野というところですね、化学に進む魅力的なところって。

学生:必要とされるからしっかり給料も貰えるということですもんね。

先生:そう!世の中の役に立てて自分の将来も安泰なんてこんないいことないですよ。

学生たち:将来に希望が持てました。本日はインタビューにご協力いただきありがとうございました!

3.研究室内の様子
次に研究室の設備や様子などを写真を交えて紹介していきたいと思います。

山口研究室では、化学反応に関する研究を行っています。

これは研究室の学生による手作りの実験装置です。管や電気の配線を学生が協力して作り上げたそうです。

 

実験で合成した物質を分析する装置が複数の部屋にわたってたくさん設置されていました。

まず棚にたくさんあるのがガスクロマトグラフィーの装置。

試料の管に対する流れやすさ、流れる速さの違いにより合成した物質を分離し、分析することができます。

IRと呼ばれる赤外分光装置。

試料に赤外線を当て、どの波長の光がどれくらい試料に吸収されたかを調べることで試料を分析します。

ひときわ大きいNMR装置。

超強力な磁場を当て、電磁波を物質に共鳴させてその共鳴周波数から物質の構造を解析します。

液体窒素や強力な磁場を使うためこの装置だけ別の部屋に設置してありました。

X線回折を利用して結晶の構造を解析する装置。

最近新しく導入されたらしい装置で研究室にある装置の中で一番ピッカピカでした。

 

4.最後に
山口研究室については以上です。読んでいただきありがとうございました。
また、最後になりましたが、山口先生をはじめ協力していただいた研究室の方々には、心より感謝を申し上げます。

 

繰り返しになりますがYoutube動画で山口先生本人による研究紹介を投稿しております。こちらもご視聴いただけると幸いです。

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